FANTASY
9月冒頭、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの“SEPTEMBER”について触れたが、今回は“FANTASY”について書きたい。全盛期のアース・ウィンド・アンド・ファイアーはモーリス・ホワイト(1941年12月19日~2016年2月3日)とフィリップ・ベイリー(1951年5月8日~)のツインボーカルを擁していた。ツインボーカルもしくは複数のボーカルがいるバンドで思い浮かぶものをつれづれに挙げていくと、ビートルズのポールとジョン、CSN&Yのデビッド・クロスビー/スティーブン・スティルス/ニール・ヤング、イーグルスのグレン・フライとドン・ヘンリー、オアシスのギャラガー兄弟。いずれも同世代で近親憎悪のような嫉妬の入り混じった微妙な関係性が垣間見られる。そのため、解散にまで追い込まれるわけだが。しかしモーリス・ホワイトとフィリップ・ベイリーは10歳違いで、ある程度適度な距離を保ちながら、お互いを認め合った関係のように見える。
フィリップ・ベイリーは基本ファルセットで押し切るボーカル。それが聴くものに官能をもたらす。この“FANTASY”はその最たるものだ。また、バックの演奏がグッとくる。まずはラリー・ダン(1953年6月19日~)によるイントロのキーボード。“SEPTEMBER”ライヴ版でのイントロも彼の手によるもので、とても印象的だ。これらは80年代キーボードサウンド(スタイル・カウンシル~ニック・タルボット、ペットショップボーイズ~クリス・ロウなど)の嚆矢とも言えるのではないだろうか。そして歯切れのよいホーンセクション。それもトランペット5本、トロンボーン2本、アルトサックス1本、テナーサックス1本の大編成によるパンチの利いた1拍。それにあわせてポーズをとるフィリップ・ベイリー。どんどん盛り上がるイントロ、そして満を持して彼のファルセット。
Every man has a place
In his heart there’s a space
And the world can’t erase his fantasies
もう、ノックアウトです。あとは彼らの歌とサウンドに乗って、宇宙へと昇天するのみ。
ずっと、素敵な世界に浸れるのですが、その中でも、特に僕の好きな個所は…
……together、
……of never、
……forever、
と、のびやかに歌った末の
as one
ダメ押し、歌い上げマックスの部分です。
あと、2番目の間奏前のコーラスとホーンセクションの掛け合いのところがたまりません。そして、見逃せないのが、ヴァーダイン・ホワイト(1951年7月25日~、モーリス・ホワイトの弟)のベース。イントロ、間奏では真似したくなる(ベース弾けないけど…)キャッチーなリフでその他では淡々とリズムを刻んでグルーブしていく、いぶし銀のプレイ。
最後にアウトロでのホーンセクションをバックにフィリップ・ベイリーがロングトーン で歌い上げるところで完全に逝っちゃいました。“FANTASY”ありがとう!
追記:今回、、当時のライヴ映像を見て、邦題が「宇宙のファンタジー」である理由が分かった気がします。もちろん歌詞の内容が「宇宙」を題材にしているからなのですが、それよりも宇宙っぽい衣装(70年代にイメージする宇宙っぽさ)から連想した名付けであることを確信したのであります。