中低音に包まれたなら
「音の風景Vol.2~Trombone Quartet Capriccio in Shimizu」
2017年10月7日 SAT 14:00開演
静岡市東部勤労福祉センター 清水テルサホール
今回の演奏会の最大の特徴はトロンボーンの四重奏であることだ。その音のやさしさと響きに酔いしれてしまう。定員500人のホールに生音がいきわたる。ポピュラー音楽のコンサートばかり行っているとPAで音を聴くことに慣らされてしまい、本来の生音の存在を忘れてしまう。逆に吹奏楽、オーケストラを聴いている人たちはこの生音を当たり前の存在として受け止めている。改めて、生音の良さを実感する。しかもたった四本の管楽器である。オーケストラや吹奏楽団などの大所帯なら音が届くのも当たり前かなと思えるが奏者4人しかいないステージからこれほどの音を受け止めると、視界に映るものと耳にするものとのギャップに戸惑いを覚えるほどだ。
さて、トロンボーンは吹奏楽の中では中低音を担うパートである。そして、その音は同じ金管のトランペットと比べると丸くて柔らかい印象がある。その音に包まれると自然と優しい気持ちになる。そんな穏やかな気持ちを打ち破ったのが2曲目のバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」である。どんな曲だっけ?と思われた方には嘉門達夫の "チャララ~ン、鼻から牛乳" の元曲と言えば、おわかりになるだろうか。
元々、この曲はパイプオルガンやヴァイオリン等でよく演奏される。前半のトッカータは速いパッセージが特徴。いわゆる速弾き。これをスライド楽器であるトロンボーンでやるのである。同じ金管でもピストン楽器ならまだ何とかなるだろうけど(それだって難しい)、スライドを素早く動かしながら、息を吹き込むなんて、狂気の沙汰である。何故そんなことをするのか?スライド楽器奏者の意地?向上心?達成感?いずれにしても、見ごたえあった(聴きごたえはもちろんのこと、素早いスライドさばきは本当に見るものを圧倒します)!
そして、後半のフーガ、乱暴な言い方をすれば、輪唱のようなもの(正確に言うと対位法による音楽形式である遁走曲)。ここは4本のトロンボーンの音色が美しく絡み合うところが聴きどころ。アンサンブルの妙がいかんなく発揮されていた。音楽に詳しくなくても、聴き惚れてしまう。そして、これをきっかけに対位法に興味を持つと、今まで退屈だと思っていたクラシックが興味深くなるはず。こむずかしいことは、さておき、妙技というものは、音楽に精通している、いないに関わらず、人々に感動をもたらす。
この他にハイドンの「天地創造より大いなる偉業が成し遂げられた」、サン=サーンスの「交響曲第三番よりアダージョ」等のクラシックからJ.ウィリアムズの「オリンピックファンファーレとテーマ」、「映画音楽メドレー」そして童謡メドレー「ふるさとのうた」まで幅広いジャンルの曲を演奏した。それぞれの曲からそれぞれの人々が何かしらのメッセージを受け止めたはず。「中低音に包まれたなら、きっと、耳にするすべての音はメッセージ」