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クロスオーバーの魅力

2017年09月09日 SAT 14:00開演

磯子区民文化センター 杉田劇場 コスモス

ピアノ、箏、管楽器、バリ。4ピースからなるシャンティドラゴンのコンサート。

 童謡、ジャズ、前衛音楽、様々なジャンルを横断的に演奏、披露するユニットである。しかし、本質はそのような表現で説明できない。非常に個人的な解釈であるが、シャンティドラゴンが作り出す世界は、演奏会というよりは、心象風景を想起し、思念を喚起するパフォーマンスとでも言おうか。素晴らしい音楽には往々にして心を揺さぶられる。揺さぶられた心からは何かしらの感情が湧き、時には具体的な情景が脳裏に浮かぶ。過去に強く印象に残った情景とリンクしたり、音楽と舞踏が無意識を刺激して今まで見たこともない光景を作り出したり、その情景は聴く人それぞれによって違う。それが心象風景なのだろう。そして、その心象風景を抱えたまま、シャンティドラゴンの音楽と舞踏を体感していると、種々の思念が頭の中をめぐる。

 たとえば、第一部3曲目「里の秋」と4曲目の「ちいさい秋みつけた」はともに童謡であるが、アレンジ、奏法が対極的である。前者がどちらかというと原曲に近いアレンジで抒情的である。後者はテンポを速め、リズミカルにして、かっこいい演奏である。秋を題材としている童謡だが、違うアプローチで演奏することによって、日本の秋とは何だろうと、根源的な問いを自分に投げかけていた。

 「里の秋」を聴いていたときには、シンと静かな秋の夜や冷たい月を思い浮かべていた。童謡は日本の詩情と西洋の曲想によって作られている。ピアノの林あけみから箏の元井美智子へと主旋律演奏が受け渡されていくと、対極的な和洋の楽器によって同じイメージ(静寂と冷徹)が表現されていて興味深い。これは童謡を演奏するのに理想的な形の一つではないかと思える。そこへ金剛督(こんごうすすむ)のテナーサックスが別の感情を持ち込む。改めて、自分が録画したものを聴くとラストは思いのほか、演奏に熱が帯びていることに驚かされた。

これを機に改めて、「里の秋」の歌詞を調べてみると、これもまた、考えさせられる内容。テレビっ子でテレビ漫画の主題歌(僕が子供の頃はまだアニソンなんて言葉はなかった)ばかり歌っていたものだから、上の世代の人たちが当然知っている童謡・唱歌を知らない。もちろん、耳にしたことはあるけれども、自分で歌うことがほとんどなかった。だから、歌詞がうろ覚えだったり、知らなかったりする。詩情が欠けていると音楽は未完成のような気がする。そのように最近感じる。たとえ、インストゥルメンタルだとしても、演奏に詩情は不可欠だと思う。「里の秋」の歌詞には、単なる秋の寂しさだけでなく、外地の父を思い、その安否を気遣う切なさが込められている。その切なさが溢れてラストのテナーサックスの熱い演奏となったのではないか。もうここまでくると妄想の域に達してしまうのだが、そんな思いに駆り立てる何かがシャンティドラゴンにはある。

 そして、忘れてはならないのが、小泉ちづこのしなやかで秘めた思いを見事に表した舞踏である。こればかりは見てもらわないとわからないと思って、録画したのが、先程言及した「里の秋」ラスト部分の動画である。本来、僕は演奏会において動画は撮らない。生のものを現場でしっかり受け止めたいからだ。でも、小泉ちずこの踊りは是非今回のブログに動画として載せたいと思い、普段の自分に対する縛りを解いて、録画ボタンを押した次第である。この曲のあと、同じ衣装で踊っているが、ひとつだけ違う箇所がある。それは「里の秋」では能面をつけて踊っているが、次の「ちいさい秋みつけた」がはじまると、能面をはずし、素顔で踊る点である。うがった見方かもしれないが、「里の秋」では秘めた思いとリンクさせて、能面で顔(=表情すなわち思い)を隠し、ではその秘め事を解放してエキセントリックな部分を表現しているのではないかと思った。

 さて、「里の秋」ラストの熱を、一旦、無にする演奏後の静寂。リーダーの金剛督は慎重にタイミングを見計らって、次の曲のキューを出した。その瞬間、静から動へ雰囲気ががらりと変わった。冒頭に述べたとおり、テンポアップしリズムカルである。なんだ、このカッコよさは!?演奏中ずっと僕の頭の中をこの言葉が支配した。「ちいさい秋みつけた」はサトウハチロウ作詞で、よく2番の「おへやは きたむき くもりの ガラス うつろな めのいろ とかした ミルク」の箇所がエキセントリックだと言われるが、そのエキセントリックさが今回の演奏によく表れている。結局、カッコいいとエキセントリックだなという思いだけがうずまいたまま曲が終わってしまった。もっと自分に音楽的素養があれば、もう少しこのカッコよさとエキセントリックの秘密をうまく伝えられるのに、それが叶わぬことが、とても、歯がゆい。ちなみに編曲は林あけみの手によるものである。

 この他、「乙女のワルツ」などのシャンティドラゴンオリジナル曲や森田芳光監督作品「キッチン」のサントラから「夢」「北公園」、ドビュッシーの「月の光」、童謡「うさぎ」、ジブリ作品「かぐや姫」から「いのちの記憶」など色々な曲を演奏、舞踏した。まさに日本の唄~世界の唄である。和洋、種々のジャンルの曲を横断(クロスオーバー)し、我々聴衆を魅了するのがシャンティドラゴンである。素敵なパフォーマンスをありがとうございます。

※出演者、作詞家などを敬称略とさせていただきました。

※シャンティドラゴン「里の秋」抜粋

※上村景嗣様のご厚意でシャンティドラゴン「ちいさい秋みつけた」抜粋 動画をリンクさせていただきました。下線部分をクリック。2017年9月21日

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